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​【開拓の伝承】

竜の箱庭計画.png

来たるべき終わりだけが漠然と横たわっていたその場所に、

1人の精霊と4体の始まりの竜たちが降り立った。

 

精霊は4つの街を造り、始まりの竜たちはそれぞれに

物語(イノチ)を吹き込んだ。

街にはやがて外から人々が訪れ、賑やかになっていった。

 

精霊と竜は時に人々と語らい、時に人々を律し導きながら、幾つもの歴史が紡がれて行くのを見守った。

 「開拓の伝承」とは、この世界の人々の間に当然のように語り継がれている昔話です。何十編とあって、ここにあるのはその序章みたいな感じです。ただ単に「開拓の伝承」と言えばこの文だけを指すこともあれば、伝承全文を指すこともあります。

 要は建築系クラフターがやっていることをそれっぽくコテコテに書き直しただけですので、身も蓋も無く翻訳すると

「ワールド生成して4つの街作って、そこにそういう歴史がある体で登場人物とか配置したよ」

となります。つまり精霊=クラフター(動画ではゆかりさん)というわけです。

 建築してると、「千年前の争いの痕跡(今造った)」とか「廃墟(築5分)」とかザラでしょ? そんな感じです。世界3秒前説とか、そういうの大好きなもんでして、へへへ……

【この世界の起こり】

 世界には幾つかの層があり、その一番下の層には「終わり」と名付けられた竜が住んでいた。時間さえも存在しない真っ暗闇の中、終わりの竜が気まぐれに吠えた先にボンと穴が開いた。その先には原野が広がっていた。終わりの竜はその原野に興味を抱いたが、それも数瞬のことであった。何も始まらず何も終わらないそれをとても退屈に感じた。だけど、その原野に自分の力を及ぼすことは出来なかった。なので、こっそりと外の世界から人を呼んだ。数層離れた全く別の世界から。終わりの竜はその人を「精霊」と呼び、自分の持つ幾ばくかの力を与えた。

 その力を好きにしていいから、あの原野を面白おかしく作り替えてはくれまいか。何でもよい、何か素敵なものを始めてほしいのだ。

 そう頼まれた精霊は嬉々として原野の上に街を建て始めた。終わりの竜はそれが大層面白く、飽きもせずに眺め暮らした。精霊は街を建てるだけでは飽き足らず、その街に存在するであろう人々を描き出し、人々が描くであろう歴史を編み出し、一つの立派な世界を作り出してしまった。終わりの竜は、まさかそこまでやってくれるとは思ってもいなかったので少し心配になった。

 精霊よ、そろそろ元の世界に帰らなくとも良いのか。

 おやおや、何でもいいから何か作ってくれと言ったのはあなたじゃないですか。私はまだまだ作り足りないのですよ。もう少し、最後の仕上げをさせてください。

 一体、何をするんだい。

​ いいですか? 私はこの世界に街と歴史の基礎を作り出しました。やがて世界は動き出すでしょう。ですが、このままでは私が描いた最新の歴史に基づいて「当たり前の日々」を繰り返すだけのつまらない世界になってしまいます。いつまで経っても歴史が更新されなくなってしまうんです。

 歴史が更新されなくなる……ふむ。

 面白い世界をご所望なのでしょう。でしたら私の話をよく聞いてください。

 良いだろう。

 変化の無い原野を「つまらない」と思うあなたならご理解いただけると思うのですが、「面白い」世界は変化に富んでいる必要があります。手っ取り早いのはそこに「物語」を与えてやることです。

 ふむふむ。

​ そこに物語があれば、世界は勝手に面白くなるんです。何の変哲もない砂場でさえ、そこに物語を宿してやれば、金銀財宝の眠る伝説の山に生まれ変わり、死体の積まれたおどろおどろしい魔の巣窟に早変わりするんです。そして、物語を生み出すには「悪」となる存在を用意してやると手っ取り早いんです。

 「悪」となる存在、か。

 些細なきっかけでも構いません。私が知る人というものは、自分にとっての悪を排除すべく動くというものが普通ですから、人々の中に悪となるものをポンと置いてやるだけで、人々は勝手に動き出し、人々が動けば必然的にそこに物語が生まれるのです。更に人々の種類が多ければ多いほど、物語は生まれやすくなります。

 なるほど、な……

 おや、どうしましたか?

 どう、とは。

 えーと……気のせいでしたか。どこまで話しましたっけ。まあいっか。「善」とは「悪」の対義語ですから、戦争や災害を経るからこそ人々は平和や安寧を渇望し、その為に動くことが世界の動力源となる。という訳なんですよ。

 精霊は己の体の複製を作ると、その複製を真っ二つに裂いて分け、それぞれに精霊自身が持つ「善」と「悪」を宿し、世界の管理者として配置すると、ようやくその世界を離れて帰って行った。

 精霊が離れた現在の世界。果たして善と悪の精霊は各々の役目に忠実に働き、人々は厄災と平穏の意味を知りながら歴史を紡いで行くこととなる。

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